【宅建・民法】なぜ加害者から「相殺」できないの?暴力事件を防ぐ民法の仕組み

宅建試験の勉強、毎日お疲れ様です!民法のテキストを読んでいると、日常生活ではあまり使わない言葉がたくさん出てきて、少し戸惑ってしまうこともありますよね。特に「相殺(そうさい)」や「受働債権(じゅどうさいけん)」といった漢字が並ぶと、難しく感じてしまうのは、初学者の方なら誰もが通る道です。

でも、安心してください。法律の言葉は難しそうに見えますが、その背景にある「理由」を知ると、実はとても人間味のある、当たり前のことを言っているだけだと気づけます。

今日は、民法の中でも特にドラマチックで、かつ試験でも問われやすい「不法行為と相殺の禁止」についてお話しします。「なぜ相殺できないのか?」という理由をストーリーで理解すれば、丸暗記しなくても自然と答えが導き出せるようになりますよ。一緒に整理していきましょう!

不法行為の加害者からは「相殺」できないってどういうこと?

まず、今回のテーマである「不法行為で発生した債権を受働債権として相殺できない」というルール。この一文だけ見ると、なんだか呪文のように聞こえてしまいますよね。

これを噛み砕くために、まずは言葉の意味を簡単に確認しておきましょう。

ポイント
  • 不法行為(ふほうこうい):人を殴ってケガをさせたり、騙したりする悪いこと。これにより、被害者には「損害賠償請求権(お金を払えと言える権利)」が生まれます。
  • 相殺(そうさい):お互いに貸し借りがあるときに、「チャラにしましょう」と処理すること。

民法では、ある特定の悪いことをして損害賠償金を払わなければならなくなった人(加害者)の方から、「俺もお前に金を貸してるから、その借金と今回の慰謝料でチャラな!」と主張することを禁止しているのです。

「殴ってチャラ」がまかり通る世界を想像してみよう

では、なぜ加害者からの相殺が禁止されているのでしょうか?ここで、具体的なエピソードをイメージしてみましょう。

例えば、Bさん(加害者)がAさん(被害者)に100万円を貸していたとします。しかし、Aさんはなかなかお金を返してくれません。

イライラしたBさんは、こう考えました。「どうせ返してくれないなら、Aをボコボコに殴ってケガをさせて、その治療費や慰謝料として100万円の損害賠償義務を負ってやろう。その上で、『俺の貸金100万円』と『お前の損害賠償100万円』で相殺(チャラ)だ!と言えば、実質的にお金を取り返したことになるぞ!」

もし、法律がこれを認めてしまったらどうなるでしょうか?世の中は「借金を返さない相手には暴力を振るってもいい」ということになってしまい、暴力事件が多発してしまいますよね。

このような野蛮な解決方法を防ぐために、民法では「人の生命・身体を侵害したことによる損害賠償債務」を持っている人(加害者)からは、相殺を主張できないと決めているのです。

これは、被害者であるAさんを保護するためのとても大切なルールです。法律用語の意味をしっかり理解しておくと、こうしたイメージが湧きやすくなります。

基本的な用語に不安がある方は、こちらの記事で基礎を固めておくとスムーズですよ。宅建民法の基礎!「善意・悪意」や「対抗する」など頻出の法律用語をわかりやすく解説

試験に出る!「受働債権」という言葉のワナ

さて、ここからが試験対策として重要なポイントです。宅建試験の過去問などでは、「受働債権(じゅどうさいけん)」や「自働債権(じどうさいけん)」という難しい言葉を使ってひっかけ問題が出されることがあります。

「言い出した方」が自働債権

相殺をする場面では、2つの債権が登場します。先ほどの例で整理してみましょう。

ポイント
  • 自働債権:「相殺しよう!」と言い出した人(B)が持っている債権(貸金債権)
  • 受働債権:「相殺しよう!」と言われた相手(A)が持っている債権(損害賠償請求権=Bにとっては支払うべき債務)

今回のルールを法律用語で正確に言うと、「人の生命または身体の侵害による損害賠償債務を『受働債権』として相殺することはできない」となります。

つまり、Bさんが「相殺しよう!」と自分から働きかける(自働)ときに、相手の権利(Aの損害賠償権)を受け身(受働)の立場にして消滅させることはできない、という意味です。

「どっちが債権者でどっちが債務者だっけ?」と混乱してしまった場合は、一度落ち着いて図を書いてみるのがおすすめです。こちらの記事でも、債権者と債務者の関係について整理しているので、あわせて確認してみてくださいね。【宅建・民法】どっちが債権者?売買契約でパニックにならないための基礎知識

【重要】被害者から「相殺」するのはOK!

ここが一番のひっかけポイントです!「不法行為の債権は絶対に相殺できない」と丸暗記するのは危険です。

禁止されているのは、あくまで「加害者(B)」からの一方的な相殺です。逆に、被害者(A)の方から「治療費をもらう代わりに、私の借金をチャラにしてくれませんか?」と提案することは自由なのです。

なぜなら、被害者が自分で「それでいい」と言うのであれば、被害者保護の観点からも問題がないからです。現実的に、現金をやり取りする手間が省けるメリットもありますよね。

試験では「不法行為に基づく損害賠償債権は、いかなる場合も相殺できない」という選択肢が出ることがあります。これは「×(バツ)」です。「被害者から主張する場合はOK」という例外を忘れないでくださいね。

ちなみに、損害賠償にもいろいろな種類があります。「債務不履行(契約違反)」による損害賠償との違いなども整理しておくと、知識がより立体的になりますよ。債務不履行=約束破り!宅建試験で頻出の「損害賠償」と「解除」のルール

まとめ:今日の重要ポイント

いかがでしたか?「不法行為と相殺」の関係は、法律用語だけで覚えようとすると難しいですが、「暴力を防ぐため」という理由を知れば、すんなり頭に入ってくるはずです。

最後に、今日の記事でここだけは覚えて帰ってほしいポイントをまとめました。試験当日に思い出せるよう、今のうちにしっかり整理しておきましょう。

ポイント
  • 加害者側からは相殺できない:「生命・身体の侵害」による不法行為の場合、加害者が無理やり借金とチャラにすることは禁止されている。
  • 理由は被害者保護:借金の回収手段として、暴力などの不法行為が誘発されるのを防ぐため。
  • 被害者側からは相殺OK:被害者が望むなら、損害賠償金と借金を相殺することは認められる。

「加害者はダメ、被害者はOK」。まずはこのシンプルな結論を覚えておくだけでも、得点力はグッと上がります。

焦らず一つひとつ、こうして「理屈」で納得していくことが合格への近道です。今日もまた一つ、重要な知識が増えましたね。この調子で、少しずつ前に進んでいきましょう!