【宅建民法】「人の土地が自分のものに?」取得時効の仕組みと10年・20年の違いを解説

【宅建民法】「人の土地が自分のものに?」取得時効の仕組みと10年・20年の違いを解説 宅建

こんにちは。宅建試験の勉強、順調に進んでいますか?民法の分野に入ると、聞き慣れない言葉や「常識では考えられないようなルール」が出てきて、少し戸惑ってしまうこともありますよね。私自身も学習を始めた当初は、「人の土地を勝手に使っていたら自分のものになるなんて、泥棒と同じじゃないか!」と驚いた記憶があります。

今日取り上げるテーマは、まさにその驚きのルールである「取得時効(しゅとくじこう)」です。

一見すると理不尽に見えるこの制度ですが、試験対策としては「数字」と「計算」のルールさえ押さえてしまえば、実は確実な得点源になるラッキーな分野なんです。難しい法律用語も、噛み砕いてイメージすれば怖くありません。今日も一緒に、一つずつ不安を解消していきましょう。

取得時効とは?まずは3つの要件を整理しよう

取得時効とは、簡単に言えば「他人の物であっても、一定期間、自分のものとして使い続ければ、本当に自分のものになる」という制度です。これには「権利の上に眠る者は保護しない(自分の土地ならちゃんと管理しなさい)」という法の精神や、長年続いた事実状態を尊重しようという目的があります。

ただし、ただ使っていればいいわけではありません。取得時効が成立するためには、以下の3つの要件すべてを満たす必要があります。

① 所有の意思を持っていること

② 平穏かつ公然に他人物を占有すること

③ 一定期間占有すること

ここで特に大切なのが、①の「所有の意思」です。これは「自分のものにするつもり」で占有していることを指します。

例えば、アパートを借りている賃借人はどうでしょうか?どんなに長く住んでいても、それは「借りている(他人のものだと認めている)」状態ですよね。これを「他主占有(たしゅせんゆう)」と言い、この場合は何年経っても時効は成立しません。逆に、建物を人に貸しているオーナーさんは、自分では住んでいませんが、借主を通じて占有していることになります。これを「間接占有」と言い、この場合は時効取得の要件を満たします。

「10年」か「20年」か?期間を決める重要なルール

次に、③の「一定期間」について詳しく見ていきましょう。ここは試験で最も問われやすいポイントの一つです。必要な期間は、「占有を開始した時点」での状態によって2通りに分かれます。

占有開始時の状態 時効完成に必要な期間
善意無過失 10年
悪意 または 有過失 20年

ここで「善意・悪意」という言葉が出てきましたね。宅建の民法において、「善意」は「知らないこと」、「悪意」は「知っていること」を意味します。決して「良い人・悪い人」という意味ではありません。

用語の意味に不安がある方は、こちらの記事(「善意・悪意」や「対抗する」など頻出の法律用語をわかりやすく解説)でも詳しく解説していますので、合わせて確認しておくと理解がスムーズになります。

判定の基準は「スタート時点」のみ!

ここでの重要ポイントは、「占有開始の時点」だけで判断するということです。

例えば、最初は「自分の土地だ」と信じ込んでいて(善意無過失)、占有をスタートしたとします。その後、3年経ったころに「あ、これ隣の人の土地だった!」と気づいた(悪意になった)としましょう。この場合、期間はどうなるでしょうか?

答えは、「10年のまま」です。途中で悪意に変わっても、スタート時点が善意無過失であれば、ゴールは10年で固定されます。このひっかけ問題は非常によく出るので、注意しておきましょう。

試験の山場!「占有の承継」を攻略しよう

さて、ここからが今日の本丸です。土地や建物が、AさんからBさんへと引き継がれた場合、時効期間はどう計算するのでしょうか?

民法では、「前の人の占有期間」と「占有開始の状態」を引き継ぐ(承継する)ことができるとされています。もちろん、引き継がずに「自分独自の占有」だけを主張しても構いません。自分にとって有利なほうを選べるのです。

具体例を使って、頭を整理してみましょう。

ケース①:前の人の「悪意」を引き継ぐ場合

【状況】Aさん(悪意)が15年間占有した後、Bさん(善意無過失)に建物を売却。Bさんはその後、5年間占有しました。

この場合、Bさんはどうすれば時効を完成できるでしょうか?

ポイント
  • Bさん独自の占有だけを主張する場合:Bさんは善意無過失なので「10年」必要です。今はまだ5年なので、あと5年頑張る必要があります。
  • Aさんの占有を引き継ぐ場合:Aさんの「15年」をプラスできます。しかし、Aさんの「悪意」というステータスもセットで引き継いでしまいます。悪意の場合はトータル「20年」が必要です。計算すると、「Aの15年 + Bの5年 = 20年」。

つまりこのケースでは、Aさんの占有を引き継げば、合計20年となり、今すぐ時効が完成します。Bさん自身は善意無過失でも、前の人の期間を利用するなら、その「悪い状態(悪意)」も受け入れなければならない、というのがルールの肝です。

ケース②:引き継がないほうが早い場合

では、次のケースはどうでしょうか。ここが試験で差がつくポイントです。

【状況】Aさん(悪意)が5年間占有した後、Bさん(善意無過失)にバトンタッチ。現在、Bさんが占有して5年が経ったとします。

この時、Bさんは時効を主張できるでしょうか? 2つのパターンで計算してみましょう。

パターンA:Aさんを引き継ぐ(合算する)Aさんは悪意なので、目標は「20年」になります。「Aの5年 + Bの経過5年 = 10年」。20年まで、あと10年も必要です。

パターンB:Bさん独自でいく(合算しない)
Bさんは善意無過失なので、目標は「10年」でOKです。
「Bの経過5年」。
10年まで、あと5年で完成します。

いかがでしょうか。この場合、Aさんの期間を足し算してしまうと、かえってゴールが遠のいてしまいます。したがって、Bさんは「前の人の占有は承継せず、自分だけの期間で主張する」ほうが有利になります(あと5年で完成)。

試験問題では、このように「足したほうが早いか? 自分だけで主張したほうが早いか?」を冷静に計算させる問題が出題されます。「前の人の期間は足せる!」と飛びつく前に、「足すとステータス(善意・悪意)も引き継ぐ」というルールを思い出してくださいね。

まとめ:今日の「これだけ」覚えよう

取得時効は、図を書いて時系列を整理すれば、パズルのように解ける楽しい分野です。最後に、今日これだけは持ち帰ってほしいポイントをまとめました。

ポイント
  • 期間の基本:善意無過失なら10年、それ以外(悪意・有過失)なら20年。
  • 判定のタイミング:「占有開始時」のみで決まる。途中で気づいても期間は延びない。
  • 占有の承継:前の人の期間を足すなら、その人の「善意・悪意」もセットで引き継ぐ。
  • 有利な選択:「足して20年」を目指すか、「自分で10年」を目指すか、早いほうを選べる。

この知識があれば、過去問の事例問題も怖くありません。「自分がBさんだったらどっちが得かな?」と、当事者になりきって計算してみてください。今日学んだ知識は、必ず本番での力になります。一歩ずつ、合格に近づいていきましょう!