こんにちは。宅建試験の勉強、順調に進んでいますか?
民法の分野に入ると、普段聞き慣れない言葉がたくさん出てきて、「もう無理かも……」と不安になってしまうこと、ありますよね。私自身も最初は、条文の漢字を見ただけで眠くなってしまった経験があるので、その気持ちは痛いほどよくわかります。
でも、安心してください。法律用語は「漢字の意味」を分解して、身近なストーリーに置き換えるだけで、驚くほど頭に入りやすくなります。
今回のテーマは「表見代理(ひょうけんだいり)」です。
なんだか難しそうな字面ですが、要するに「代理人っぽく見える人」のこと。もしあなたが、代理人だと思って契約した相手がニセモノだったら……?今日は、そんなトラブルを解決するためのルールを一緒に見ていきましょう。
まず、「表見代理」という言葉のイメージから掴んでいきましょう。
通常、代理権を持っていない人(無権代理人)が勝手に行った契約は、本人(依頼したとされる人)には効果が及びません。勝手に契約されたらたまったものではないので、これは当然ですよね。
しかし、もしその無権代理人が「どう見ても本物の代理人に見える」状況だったらどうでしょうか?
このように、相手方(Bさん)が「この人は間違いなく代理人だ」と信じても仕方がないような事情がある場合、法律は相手方を守ろうとします。
つまり、たとえ無権代理であっても「代理行為があったものとして、契約を有効にする」のです。これが表見代理という制度です。
本人(Aさん)にとっては「勝手にされたことなのに!」と不満かもしれませんが、代理人っぽく見えてしまう原因(名刺を回収し忘れたなど)が本人にもある場合、相手方の保護が優先されるわけです。
なお、この制度が適用されるためには、相手方(Bさん)が事情を知らず(善意)、かつ落ち度がない(無過失)ことが条件になります。
※法律用語の「善意・悪意」については、こちらの記事で基礎を確認しておくとスムーズです。宅建民法の基礎!「善意・悪意」や「対抗する」など頻出の法律用語をわかりやすく解説
では、具体的に「どのような場合に表見代理が成立するのか」を見ていきましょう。試験ではこのパターンが事例問題として出題されやすいので、しっかりとイメージできるようにしておくことが合格への近道です。
大きく分けて、次の3つのパターン(またはその複合)があります。
これは、実際には代理権を与えていないのに、本人が相手方に対して「この人に代理権を与えましたよ」とウソの表示(連絡)をしてしまった場合です。
例えば、AさんがBさんに「Cさんに家の売却を任せたから」と言っておきながら、実はまだCさんに正式な依頼をしていなかったようなケースです。BさんがCさんを信じて契約してしまうのは当然ですよね。
この場合、本人は「やっぱり任せてなかった」と言い逃れすることはできず、契約等の責任を負うことになります。
これは、ある程度の代理権は与えられていたけれど、その範囲を超えて勝手なことをしてしまった場合です。
例えば、「家を賃貸に出してきて」と頼まれた代理人が、勝手に「売却」してしまったようなケースです。「賃貸の代理人なのだから、売却も任されているのだろう」と相手方が信じる正当な理由があれば、売買契約は有効になります。
最後は、「以前は代理人だったけれど、今はもう違う(クビになった)」場合です。
過去に代理権を持っていた人が、解任された後も代理人のフリをして契約を結んでしまったケースなどが該当します。本人が委任状や名刺を回収し忘れていた場合など、相手方からすれば「まだ代理人だ」と信じてしまいますよね。
このように、本人側にも何かしらの落ち度があり、相手方が善意無過失である場合、表見代理が成立します。
さて、ここからが少し複雑ですが、非常に重要なポイントです。
表見代理が成立する状況(相手方が善意無過失)であっても、実は相手方にとって「契約を有効にする」ことが必ずしもベストとは限りません。
例えば、勝手に売られた土地が欲しくてたまらないなら「契約は有効だ!」と主張したいでしょう。しかし、すったもんだがあった土地なんてもう要らない、むしろ騙したCさんに責任を取らせたい、と思う場合もあるはずです。
そこで、表見代理が成立する場合、相手方は次の2つの選択肢を持つことになります。
「見た目通り、契約は有効ですよね?」と本人(Aさん)に主張するパターンです。これが認められれば、当初の予定通り契約が進みます。
ただし、これを主張できるのはあくまで相手方(Bさん)だけです。本人(Aさん)や無権代理人(Cさん)の方から「表見代理だから有効だよね!」と主張することはできません。あくまで「騙された人を守る制度」だからです。
もう一つの選択肢は、契約の有効性は置いておいて、勝手なことをした無権代理人(Cさん)に対して責任を追及することです。
具体的には、「契約を履行しろ(ちゃんと物を引き渡せ)」と迫るか、あるいは「損害賠償を払え」と請求することができます。
その通りです。ここが試験でのひっかけポイントになりやすいのですが、表見代理が成立するからといって、無権代理人の責任が消えるわけではありません。
相手方は、本人に対して「契約を守れ(表見代理)」と言うこともできるし、無権代理人に対して「責任を取れ」と言うこともできる。どちらか有利な方を選べる、という最強の状態になるのです。
ちなみに、こうした「契約の有効・無効」や「取り消し」の話は、詐欺や錯誤の分野ともリンクしてきます。余裕があれば、以下の記事で「契約の効力」についての全体像も確認してみてくださいね。
詐欺は取消し?公序良俗は無効?宅建試験で狙われる「契約の効力」をスッキリ整理
いかがでしたか?「表見代理」という言葉の堅苦しさに比べて、中身は「そりゃ相手を信じちゃうよね」という人間味のあるルールだったと思います。
最後に、今日の学習の要点を整理します。試験当日に思い出せるよう、ここだけはしっかり頭に留めておいてください。
民法は、一度にすべて覚えようとするとパンクしてしまいます。まずは「誰を守るためのルールなのか」を理解することから始めていきましょう。
焦らず一つひとつ積み重ねていけば、必ず得点源になります。今日の勉強も、本当にお疲れ様でした!

