こんにちは。宅建試験の勉強、順調に進んでいますか?民法の分野に入ると、聞き慣れない言葉や「常識では考えられないようなルール」が出てきて、少し戸惑ってしまうこともありますよね。私自身も学習を始めた当初は、「人の土地を勝手に使っていたら自分のものになるなんて、泥棒と同じじゃないか!」と驚いた記憶があります。
今日取り上げるテーマは、まさにその驚きのルールである「取得時効(しゅとくじこう)」です。
一見すると理不尽に見えるこの制度ですが、試験対策としては「数字」と「計算」のルールさえ押さえてしまえば、実は確実な得点源になるラッキーな分野なんです。難しい法律用語も、噛み砕いてイメージすれば怖くありません。今日も一緒に、一つずつ不安を解消していきましょう。
取得時効とは、簡単に言えば「他人の物であっても、一定期間、自分のものとして使い続ければ、本当に自分のものになる」という制度です。これには「権利の上に眠る者は保護しない(自分の土地ならちゃんと管理しなさい)」という法の精神や、長年続いた事実状態を尊重しようという目的があります。
ただし、ただ使っていればいいわけではありません。取得時効が成立するためには、以下の3つの要件すべてを満たす必要があります。
① 所有の意思を持っていること
② 平穏かつ公然に他人物を占有すること
③ 一定期間占有すること
ここで特に大切なのが、①の「所有の意思」です。これは「自分のものにするつもり」で占有していることを指します。
例えば、アパートを借りている賃借人はどうでしょうか?どんなに長く住んでいても、それは「借りている(他人のものだと認めている)」状態ですよね。これを「他主占有(たしゅせんゆう)」と言い、この場合は何年経っても時効は成立しません。逆に、建物を人に貸しているオーナーさんは、自分では住んでいませんが、借主を通じて占有していることになります。これを「間接占有」と言い、この場合は時効取得の要件を満たします。
次に、③の「一定期間」について詳しく見ていきましょう。ここは試験で最も問われやすいポイントの一つです。必要な期間は、「占有を開始した時点」での状態によって2通りに分かれます。
| 占有開始時の状態 | 時効完成に必要な期間 |
|---|---|
| 善意無過失 | 10年 |
| 悪意 または 有過失 | 20年 |
ここで「善意・悪意」という言葉が出てきましたね。宅建の民法において、「善意」は「知らないこと」、「悪意」は「知っていること」を意味します。決して「良い人・悪い人」という意味ではありません。
用語の意味に不安がある方は、こちらの記事(「善意・悪意」や「対抗する」など頻出の法律用語をわかりやすく解説)でも詳しく解説していますので、合わせて確認しておくと理解がスムーズになります。
ここでの重要ポイントは、「占有開始の時点」だけで判断するということです。
例えば、最初は「自分の土地だ」と信じ込んでいて(善意無過失)、占有をスタートしたとします。その後、3年経ったころに「あ、これ隣の人の土地だった!」と気づいた(悪意になった)としましょう。この場合、期間はどうなるでしょうか?
答えは、「10年のまま」です。途中で悪意に変わっても、スタート時点が善意無過失であれば、ゴールは10年で固定されます。このひっかけ問題は非常によく出るので、注意しておきましょう。
さて、ここからが今日の本丸です。土地や建物が、AさんからBさんへと引き継がれた場合、時効期間はどう計算するのでしょうか?
民法では、「前の人の占有期間」と「占有開始の状態」を引き継ぐ(承継する)ことができるとされています。もちろん、引き継がずに「自分独自の占有」だけを主張しても構いません。自分にとって有利なほうを選べるのです。
具体例を使って、頭を整理してみましょう。
【状況】Aさん(悪意)が15年間占有した後、Bさん(善意無過失)に建物を売却。Bさんはその後、5年間占有しました。
この場合、Bさんはどうすれば時効を完成できるでしょうか?
つまりこのケースでは、Aさんの占有を引き継げば、合計20年となり、今すぐ時効が完成します。Bさん自身は善意無過失でも、前の人の期間を利用するなら、その「悪い状態(悪意)」も受け入れなければならない、というのがルールの肝です。
では、次のケースはどうでしょうか。ここが試験で差がつくポイントです。
【状況】Aさん(悪意)が5年間占有した後、Bさん(善意無過失)にバトンタッチ。現在、Bさんが占有して5年が経ったとします。
この時、Bさんは時効を主張できるでしょうか? 2つのパターンで計算してみましょう。
パターンA:Aさんを引き継ぐ(合算する)Aさんは悪意なので、目標は「20年」になります。「Aの5年 + Bの経過5年 = 10年」。20年まで、あと10年も必要です。
パターンB:Bさん独自でいく(合算しない)
Bさんは善意無過失なので、目標は「10年」でOKです。
「Bの経過5年」。
10年まで、あと5年で完成します。
いかがでしょうか。この場合、Aさんの期間を足し算してしまうと、かえってゴールが遠のいてしまいます。したがって、Bさんは「前の人の占有は承継せず、自分だけの期間で主張する」ほうが有利になります(あと5年で完成)。
試験問題では、このように「足したほうが早いか? 自分だけで主張したほうが早いか?」を冷静に計算させる問題が出題されます。「前の人の期間は足せる!」と飛びつく前に、「足すとステータス(善意・悪意)も引き継ぐ」というルールを思い出してくださいね。
取得時効は、図を書いて時系列を整理すれば、パズルのように解ける楽しい分野です。最後に、今日これだけは持ち帰ってほしいポイントをまとめました。
この知識があれば、過去問の事例問題も怖くありません。「自分がBさんだったらどっちが得かな?」と、当事者になりきって計算してみてください。今日学んだ知識は、必ず本番での力になります。一歩ずつ、合格に近づいていきましょう!

