宅建試験の勉強を進めていると、普段使わないような難しい法律用語がたくさん出てきて、心が折れそうになる瞬間ってありますよね。特に民法の分野は、漢字ばかりでイメージが湧きにくいと感じている方も多いのではないでしょうか。
実は、今回解説するテーマも、以前は「時効の停止」「時効の中断」と呼ばれていたものが、法改正によって新しい言葉に変わった部分なんです。今は「時効の完成猶予(かんせいゆうよ)」と「時効の更新(こうしん)」という言葉で整理されています。
「言葉が変わっただけで、中身は同じでしょ?」と思われるかもしれませんが、この新しい言葉の方が、実は制度のイメージを掴みやすいんです。今日は、この2つの違いと、試験で狙われやすいポイントを、初学者の方にもわかりやすく整理していきます。焦らず一つずつ理解していきましょう。
まずは細かい法律の条文に入る前に、この2つの言葉が持つ「イメージ」をしっかりと区別することから始めましょう。ここがごちゃ混ぜになっていると、後の学習で混乱してしまいます。
先生、「猶予」と「更新」って、結局どう違うんですか?
一言で言うと、「猶予」は「一時停止(待った)」、「更新」は「リセット(再スタート)」というイメージを持つと分かりやすいですよ。
時効の完成猶予とは、文字通り「時効の完成を、一定期間だけ待ってもらう」ことです。時計の針を止めるイメージですね。
例えば、6月10日に時効が完成して借金が消えてしまうとします。債権者(貸している人)としては、「もう少しで返してもらえるかもしれないのに、時効で消えるのは困る!」となりますよね。そこで、6月1日に裁判を起こすなどのアクションを起こすと、「今は争っている最中だから、6月10日が来ても時効成立にはしませんよ」と、ゴールテープを切るのを待ってくれます。これが完成猶予です。
あくまで「待ってくれているだけ」なので、その期間が終わればまた時計の針は動き出します。
一方、時効の更新とは、今まで積み上げてきた時間がすべて無効になり、ゼロから数え直しになることです。
例えば、「5年で時効」というルールの借金があり、4年が経過していたとします。あと1年で時効完成ですが、ここで「時効の更新」が起きると、経過した4年分はチャラになります。つまり、また1日目からカウントし直しになるのです。債権者にとっては非常に強力な効果ですが、債務者にとっては「また長い期間、時効が来ない」ことになります。
なお、民法の学習では他にも「善意・悪意」などの独特な用語が出てきます。言葉の意味を正しく理解することは合格への近道ですので、不安な方はこちらの記事で民法の基礎用語について解説していますので、あわせて確認してみてくださいね。
イメージが掴めたところで、試験に出る具体的なケースを見ていきましょう。「何をした時に、猶予されるのか? 更新されるのか?」を区別して覚えるのが合格へのカギです。
裁判所に対して「お金を返して!」と訴えを起こすことです。これは非常に強力な手段ですね。
注意したいのは、訴えを取り下げたり、却下されたりした場合です。この場合は、当然「更新(リセット)」はされませんが、取り下げ等から6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。「裁判やーめた!」となった瞬間に時効成立!とはならないよう、少しだけ猶予期間があるイメージです。
裁判所を通して強制的に財産を差し押さえたり、競売にかけたりする手続きです。
これは本格的な差押えの前に、財産を隠されないようにとりあえずロックする手続きです。重要なのは、「仮差押えは、時効の更新(リセット)事由ではない」という点です。
仮差押えが終わってから6ヶ月間は時効の完成が猶予されますが、それだけです。試験で「仮差押えにより時効が更新する」というひっかけ問題が出たら、迷わずバツをつけてくださいね。
これは内容証明郵便などで「お金を返してください」と請求することです。裁判所を通さないので「裁判外の請求」と呼ばれます。一般的には「催告(さいこく)」といいます。
催告をすると、その時から6ヶ月間だけ時効の完成が猶予されます。しかし、ここが最大のポイントです。催告を繰り返しても、期間は延びません。
【重要ポイント】一度催告をして6ヶ月の猶予をもらい、その期間内に再度催告をしても、さらに6ヶ月延びることはありません。催告による猶予は「1回限り」の緊急停止ボタンだと思ってください。
この6ヶ月の間に、裁判を起こすなどの本格的な手段をとらないと、時効は完成してしまいます。
債務者(借りている側)が、「はい、私には借金があります」と認めることです。例えば、借金の一部を支払ったり、「もう少し待ってください」と猶予を頼んだりする行為も承認に含まれます。
承認をすると、その時点で時効が更新(リセット)されます。「借金があることを認めたんだから、もう時効なんて主張しないよね?」ということで、また1日目からカウントし直しになるわけです。非常にわかりやすいルールですね。
ちなみに、この「承認」をするには特別な能力は不要ですが、判断能力が不十分な人の場合、勝手に承認してよいかは別の問題になります。こういった「制限行為能力者」のルールについては、こちらの制限行為能力者の解説記事で詳しく触れていますので、余裕があればチェックしておくと民法の理解が深まります。
地震や災害で裁判所が機能していないような場合です。この場合、障害がなくなってから3ヶ月間は時効の完成が猶予されます。これも「更新」ではなく「猶予」だけですので注意しましょう。
少し複雑に感じるかもしれませんが、「一時停止(猶予)」なのか「リセット(更新)」なのかを区別するだけで、正解率はぐっと上がります。
最後に、試験直前でも役立つ「これだけは!」というポイントを整理します。
民法は「暗記」よりも「理解」が大切です。「なぜそうなるのかな?」と理由を考える癖をつけると、忘れにくくなりますよ。他の分野、例えば「錯誤」などの意思表示のルールなども、一つずつ丁寧に攻略していきましょう。
焦らず、まずはこの「猶予」と「更新」の違いをマスターして、得点源にしていきましょうね!

