宅建の勉強を進めていくと、「履行不能(りこうふのう)」という四字熟語のような用語が出てきます。「漢字ばかりで難しそう……」と身構えてしまうかもしれませんね。
でも、安心してください。この言葉、日常会話で言えば「約束を守るのが不可能になった」というだけの話なんです。
本記事では、宅建試験の民法分野で頻出の「履行不能」について、具体的なイメージを持ちながら解説していきます。特に「契約解除」や「損害賠償」がどうなるのか、そして間違いやすい「危険負担」との違いについて、初学者の方でもスッキリ理解できるように整理しました。
用語の意味を丸暗記するのではなく、ストーリーで理解することで、試験本番でも迷わず正解を選べるようになりますよ。一緒に一つずつ確認していきましょう。
まずは言葉の意味から整理していきましょう。「履行不能」とは、契約は成立したものの、後から債務(やるべきこと)を果たすことができなくなってしまった状態を指します。
ここで重要なのが、「債務者の責任(わざと、または不注意)」でできなくなったという点です。
これについては、以前解説した「債務不履行」の一種として位置づけられています。債務不履行=約束破り!宅建試験で頻出の「損害賠償」と「解除」のルール
宅建試験で最もイメージしやすい具体例を見てみましょう。
買主Aさんと、売主Bさんが、建物の売買契約を結びました。しかし、建物を引き渡す前に、売主Bさんが寝タバコをしてしまい、不注意でその建物を全焼させてしまったとします。
建物は燃えてなくなってしまったので、もう買主Aさんに引き渡すことは物理的に不可能です。これが「履行不能」の状態です。
この時、悪いのは明らかに売主Bさんですよね。このように、「債務者(この場合は売主B)の責任」によって約束が果たせなくなった場合、法律では買主Aさんを守るために強力なルールを用意しています。
では、履行不能になった場合、買主Aさんはどのようなことができるのでしょうか? 試験で問われる超重要ポイントは以下の2点です。
- 催告なしで「直ちに」契約解除ができる
- 契約解除とあわせて「損害賠償請求」もできる
通常、相手が約束を遅れているだけ(履行遅滞)の場合は、「早くしてください」と催告(忠告)をする必要があります。いきなり契約解除はできません。
しかし、履行不能の場合はどうでしょうか? 建物はすでに燃えて灰になっています。「早く建物を渡してくれ」と催告したところで、絶対に無理ですよね。
そのため、履行不能の場合は、催告をすることなく、直ちに契約を解除することができます。「催告が必要である」というひっかけ問題がよく出るので、注意してくださいね。
契約を解除して「なかったこと」にしたとしても、買主Aさんには損害が残るかもしれません(引越しの手配キャンセル料など)。
そのため、契約解除をしたとしても、別途、損害賠償請求をすることが可能です。「解除したから損害賠償はできない」という選択肢が出たら、それは間違いです。
損害賠償については、あらかじめ金額を決めておく「予定」のルールなどもありましたね。こちらの記事も復習に役立ちます。「ボッタクリ防止」のルール!?宅建試験でよく出る【損害賠償額の予定】攻略法
さて、ここで勉強熱心な方が混乱しやすいのが、「危険負担(きけんふたん)」との違いです。
先ほどは「売主Bのタバコの不始末」で建物が燃えました。では、もし原因が「東日本大震災のような巨大地震による津波」だったらどうでしょうか?
建物がなくなって引き渡せないという結果は同じです。しかし、地震は売主Bさんのせいではありませんよね。
このように、債務者の責任ではない原因(天災など)で履行できなくなった場合は、「履行不能(債務不履行)」とは呼びません。「危険負担」という別のルールで処理します。
試験対策としては、以下の表のイメージを持っておくと安心です。
| 原因 | 法律上の扱い | ペナルティの有無 |
|---|---|---|
| 売主の不注意(タバコの不始末など) | 履行不能(債務不履行) | 損害賠償請求できる |
| 自然災害(地震・津波など) | 危険負担 | 損害賠償請求できない(売主も被害者だから) |
危険負担の場合でも、買主は代金の支払いを拒絶したり、契約を解除したりすることはできますが、売主に「損害賠償を払え!」とは言えません。ここが履行不能との大きな違いです。
契約の効力や無効・取消しの話とも関連してくるので、基礎的な考え方に不安がある方は、こちらも合わせて読んでみてください。詐欺は取消し?公序良俗は無効?宅建試験で狙われる「契約の効力」をスッキリ整理
履行不能は、「建物が燃えてしまった」という具体的なシーンを思い浮かべると、ルールが自然と頭に入ってきます。「もう渡せないんだから、催告しても意味がないよね」と理解しておけば、丸暗記の必要はありません。
最後に、今日覚えるべきポイントを整理しましょう。
- 履行不能とは、契約後に「債務者の責任」で履行できなくなったこと
- 履行不能の場合、催告なしで直ちに契約解除ができる
- 契約解除をしても、別途損害賠償請求ができる
- 天災など債務者の責任でない場合は「危険負担」となり、損害賠償はできない
民法の問題は、自分がトラブルに巻き込まれた当事者になったつもりで考えるのがコツです。「自分が買主だったら、すぐに解除したいし、損害賠償も欲しい!」という感覚を大切にしてくださいね。
焦らず、一つひとつの用語を自分の言葉に変換しながら進めていきましょう。応援しています!
