【宅建民法】加害者からは相殺できない!「人の生命・身体」を守る重要ルール

【宅建民法】加害者からは相殺できない!「人の生命・身体」を守る重要ルール 宅建

こんにちは。宅建試験の勉強、順調に進んでいますか?民法の勉強をしていると、「単独のルールならわかるけれど、2つのルールが組み合わさると急に難しくなる…」と感じる瞬間ってありますよね。

今日取り上げるのは、まさにその代表例ともいえる「相殺(そうさい)」と「同時履行の抗弁権」が絡み合ったケースです。「お金を貸しているAさん」と「車を売ったBさん」が登場するこの事例、試験でも本当によく狙われる重要ポイントなんです。

「どっちからは相殺できて、どっちからはできないんだっけ?」と混乱してしまいがちなこの論点ですが、実は「ある一つの視点」を持つだけで、丸暗記しなくても答えが出せるようになります。私自身も最初はここをごちゃ混ぜにして覚えていましたが、理屈がわかると得点源に変わりました。

この記事では、初学者の方がイメージしやすいように、具体的な事例を使ってゆっくり紐解いていきます。焦らず一緒に整理していきましょう。

まずは状況整理!「お金を貸したA」と「車を売ったB」

まずは、今回のテーマとなる具体的な場面をイメージしてみましょう。試験問題の文章だけで考えると頭が痛くなりますが、ストーリーで考えるとシンプルです。

登場人物と2つの債権

ここに、AさんとBさんという二人がいます。

ポイント
  • Aさん:Bさんに100万円を貸しています。(AはBに対して「貸金債権」を持っている)
  • Bさん:Aさんに100万円の中古車を売りました。(BはAに対して「代金債権」を持っている)

さて、この状況を整理すると、お互いに100万円ずつ請求できる権利を持っていますよね。普通に考えれば、「じゃあ、チャラにしましょう(相殺しましょう)」と言って終わりにしたくなります。

しかし、ここで邪魔をしてくるのが「同時履行の抗弁権(どうじりこうのこうべんけん)」です。

車の売買には「せーの!」が必要

Bさんが持っている「車の代金をもらう権利」は、ただお金をもらえるだけの権利ではありません。車の売買契約では、「代金を払う」のと「車を引き渡す」のは、「せーの!」で同時に行わなければならないというルールがあります。

これを法律用語で「同時履行の抗弁権」と言います。つまり、Aさんは「車をくれるまでは、代金100万円は払わないよ!」と主張できる強力な武器(抗弁権)を持っている状態なのです。

この「武器」がついている代金債権を、無理やり相殺で消してしまっていいのか?というのが今回の最大の論点です。なお、同時履行の抗弁権の基本的な仕組みについては、こちらの記事(「同時履行の抗弁権」って何?初心者でもわかる「せーの!」のルール)でも詳しく解説していますので、あわせて確認しておくと理解が深まりますよ。

【結論】Aからは相殺できるが、Bからはできない

結論から言うと、このケースでは以下のようになります。

ポイント
  • A(買主・貸主)から相殺を主張すること ⇒ できる
  • B(売主・借主)から相殺を主張すること ⇒ できない

なぜ片方はOKで、片方はNGなのでしょうか。ここが試験で最も問われるポイントです。理由は「Aさんが持っている『武器(抗弁権)』を誰が捨てるのか」という点にあります。

① Aが「相殺しよう」と言う場合(OKな理由)

まず、Aさんが「Bさん、あなたが返すべき100万円と、私が払う車の代金100万円、これで相殺しましょう」と言う場合を考えてみます。

この時、相殺を言い出した人(A)の持っている債権を「自働債権(じどうさいけん)」と言います。Aさんは、「車が来るまでは払わない!」と言える武器(同時履行の抗弁権)を持っているはずですが、自分から「相殺しましょう」と言うことは、「その武器を捨てて、先に代金を払ったことにしてもいいよ」と言っているのと同じです。

Aさんが「自分で自分の武器を捨てる」分には、Aさん自身の勝手ですよね。そして相手方のBさんにとっても、借金が消えてなくなるわけですから、何の不利益もありません。

だから、抗弁権を持っている側(A)から相殺を主張することは認められるのです。

② Bが「相殺しよう」と言う場合(NGな理由)

問題はこちらです。Bさんが「Aさん、あなたが貸してくれた100万円、返さなきゃいけないけど、車の代金と相殺させてもらうね!」と一方的に言ってきた場合です。

もしこれを認めてしまうと、どうなるでしょうか。

ポイント
  • 相殺によって、お互いの100万円の債権が消滅します。
  • Aさんの手元にあった「貸金債権」は消え、「車の代金支払義務」も消えます(払ったことになります)。
  • しかし、肝心の車はまだ引き渡されていません。

本来なら、Aさんは「車をくれるまでは100万円払わない!」と主張できたはずです。しかし、Bさんから勝手に相殺されたことで、Aさんは事実上「先に代金を支払わされた(代金債権を消された)」のと同じ状態になってしまいます。

これでは、Aさんは「お金(貸金)は返ってこないし、車もまだ手に入っていない」という無防備な状態に放り出されてしまいます。これはAさんにとってあまりに不利益ですよね。

このように、「相手(A)が持っている同時履行の抗弁権を、Bが勝手に奪うような相殺はできない」というルールになっているのです。

ちなみに、このように「ある事情があるため相殺が禁止されるケース」は他にもあります。例えば「不法行為」の場合などが有名ですね。加害者側からの相殺が禁止される理由についても整理しておくと、知識が繋がって覚えやすくなりますよ。
試験対策:ここだけ見れば解ける!判断のコツ

理屈はわかったけれど、本番の試験でAだのBだの言われるとパニックになりそう…という方もいるかもしれません。そこで、問題を解くときに注目すべきキーワードを整理します。

「自働債権」に何がついているか?を見る

相殺の問題が出たら、「相殺を言い出した人(自働債権を持っている人)」の債権に、抗弁権がついているかどうかを確認してください。

パターン 相殺の可否 理由を一言で
抗弁権を持っている側(A)が言い出した 〇 できる 自分の武器を自分で捨てるのは自由だから
抗弁権がついている債権(B)を消そうとする × できない 相手の武器を勝手に奪うことになるから

今回の例で言えば、Bさんの持っている「車の代金債権」には、「車を渡すまでは払ってもらえない」という同時履行の抗弁権が付着しています。

この「抗弁権付きの債権」を自働債権(自分からぶつける債権)として相殺することはできない、と覚えておきましょう。専門用語を使わずに言えば、「相手に『まずは車をよこせ』と言われる権利があるのに、それを無視して『チャラにしよう』とは言えない」ということです。

「不法行為」との混同に注意

勉強が進んでくると、先ほど少し触れた「不法行為における相殺禁止」の話とごっちゃになることがあります。不法行為の場合は「被害者を守るため(現実に金銭で賠償させるため)」ですが、今回の同時履行の場合は「公平性を保つため(相手の同時履行の権利を奪わないため)」です。

それぞれの制度の趣旨(なぜダメなのか?)を理解しておくと、記憶が定着しやすくなります。用語の定義に迷ったら、民法の基礎用語を解説した記事などで基本に立ち返るのもおすすめです。

まとめ:今日の「これだけ」覚えよう

相殺と同時履行の抗弁権の関係、少しイメージできたでしょうか。複雑に見えますが、結局は「相手の権利(武器)を勝手に奪っちゃダメ」というフェアプレーの精神なんですね。

最後に、今日の重要ポイントをまとめます。

ポイント
  • A(貸主・買主)は、自分の貸金債権を使って、Bの代金債権と相殺できる
  • これは、Aが自ら「同時履行の抗弁権」を放棄するのは自由だから。
  • B(借主・売主)は、自分の代金債権を使って、Aの貸金債権と相殺できない
  • これは、相殺を認めるとAの「同時履行の抗弁権」を一方的に奪うことになるから。
  • 「抗弁権がついている債権(代金債権など)からは、相殺を仕掛けられない」と覚えるのがコツ!

この論点は、理屈がわかればパズルのように解ける楽しい分野です。「もし自分がAさんだったら、車も来てないのに借金だけチャラにされたら怒るな…」と想像しながら、過去問にもチャレンジしてみてくださいね。一歩ずつ、確実に知識を積み重ねていきましょう!