宅建試験の勉強、毎日おつかれさまです。民法の分野に入ると、聞き慣れない言葉が一気に増えて、「なんだか難しそう…」と身構えてしまっていませんか?
私自身も勉強を始めたばかりの頃は、漢字ばかりの専門用語に圧倒されて、テキストを開くのが億劫になる日もありました。でも、民法は「私たちの日常生活にあるルール」を難しく呼んでいるだけのことが多いんです。
今回解説するのは「留置権(りゅうちけん)」です。
字面だけ見ると怖そうですが、実はこれ、皆さんも感覚的に知っている「ある当たり前のこと」を権利と呼んでいるだけなんです。今回は、この留置権のイメージをしっかりと掴んで、試験で狙われやすい「ひっかけ問題」を回避できるように整理していきましょう。
まずは、留置権という言葉の意味を、一番わかりやすい具体例でイメージしてみましょう。テキストでもよく出てくる「時計屋さん」の話です。
あなたが壊れた時計を修理に出したとします。修理が終わり、時計屋さんが「直りましたよ、修理代は1万円です」と言いました。ところが、あなたが「ごめん、今お金がないから、代金は後で払うよ。とりあえず時計だけ返して」と言ったとしたら、どうなるでしょうか?
時計屋さんはこう思うはずです。「いやいや、お金をもらうまでは時計は渡さないよ!」
まさにこれが留置権です。他人の物(時計)を占有している人(時計屋さん)が、その物に関して生じた債権(修理代金)の支払いを受けるまでは、その物を返さずに手元に留めておける権利のことです。
これを法律用語では「留置する」と言います。
時計のような「動産」だけでなく、宅建試験で扱う「不動産」についても留置権は成立します。
例えば、建物のリフォーム業者が工事をしたのに、家主がリフォーム代金を払ってくれない場合、業者は「代金を払ってくれるまで、この家は引き渡さないぞ!(鍵は渡さないぞ)」と主張して、建物を留置することができます。
民法の学習では、こういった用語の意味を一つひとつ丁寧に理解していくことが大切です。宅建民法の基礎!「善意・悪意」や「対抗する」など頻出の法律用語をわかりやすく解説した記事もありますので、用語でつまずきそうになったらぜひ参考にしてみてくださいね。
さて、留置権を行使して、他人の物を預かっている間、ただ持っていればいいというわけではありません。ここには守るべきルールがあります。
留置権を行使している人(留置権者)は、あくまで「人質(モノ質)」として預かっているだけで、その所有権はまだ相手にあります。そのため、「善良な管理者の注意をもって」留置物を占有しなければなりません。
これを善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)といいます。
「自分の物と同じくらい」ではなく、「職業や立場に応じた、一般的に期待されるレベルの注意を払って」という意味で、かなり高いレベルの注意力が求められます。うっかり壊したり汚したりしてはいけない、ということですね。
【ポイント】留置権者は、所有者の承諾を得なければ、留置物を使用したり、賃貸したり、担保に供したりすることはできません。
ただし、例外として「保存行為(現状を維持するための行為)」であれば、承諾なしで行うことができます。たとえば、「雨漏りしているから修理する」といった行為は、家の価値を守るために必要なので、所有者の許可がなくてもOKです。
宅建試験で最も狙われやすく、多くの初学者が混乱するのがこのポイントです。「借主が建物を留置できるケース」と「できないケース」のひっかけ問題です。
状況としては、建物を借りている人(賃借人)が、オーナーに対してお金を請求できる権利を持っている場合です。「お金を払ってくれないなら、家を返さないぞ!」と言えるかどうかは、「何のお金か?」によって結論が真逆になります。
「必要費」とは、その建物を使うためにどうしても必要な費用のことです。例えば、台風で屋根が壊れた時の修繕費などがこれにあたります。
本来オーナーが直すべきものを借主が立て替えた場合、「その修繕費を返してくれないなら、家は返しません」と主張して、建物を留置することができます。
ここが一番のひっかけポイントです。「造作(ぞうさく)」とは、建物に取り付けたエアコンや畳、建具などのことです。
借主がオーナーの同意を得てエアコンを取り付け、退去時に「このエアコンを買い取ってよ!」と請求する権利を造作買取請求権といいます。
しかし、オーナーがエアコン代を払ってくれないからといって、建物を留置することはできません。
「えっ、なんで? お金を払ってくれないのは同じなのに…」
と思いますよね。理由はこうイメージしてください。
「エアコン代(数万円〜数十万円)のために、建物全体(数千万円)を人質に取るのはやりすぎ!」
法律の世界では「牽連性(けんれんせい)」という難しい言葉を使いますが、要するに「建物そのもの」と「エアコン代」は直接的なつながりが薄い、と判断されるのです。
この「どっちのお金か?」という区別は、試験でも頻出です。「家は返さない!」という主張は、相手との関係において非常に強力な効果を持ちます。似たような「相手がやるまで自分もやらない」という考え方に同時履行の抗弁権がありますが、留置権は「物」を物理的に支配してしまう強力な権利なので、認められる範囲が厳格なんですね。
最後に、もう一つだけ覚えておきたい特徴があります。それは、留置権には物上代位性(ぶつじょうだいいせい)がないということです。
抵当権などの場合、もし家が火事で燃えてしまっても、その火災保険金から優先的に回収することができます(これを物上代位といいます)。
しかし、留置権はあくまで「モノそのものを手元に置いて、相手に心理的プレッシャーをかけて支払いを促す権利」です。そのため、肝心の「モノ」がなくなってしまったら、留置権も消滅してしまいます。保険金などに姿を変えて追いかけることはできないのです。
留置権は、細かい定義よりも「時計屋さん」のイメージと、「家を留置できる・できない」の区別が合否を分けます。
試験本番で迷わないように、以下の4点だけは今日しっかり覚えておきましょう。
特に「エアコン代(造作買取)では留置できない」という知識は、過去問でも繰り返し問われている鉄板ネタです。「エアコンと家は別モノ!」と割り切って覚えてしまえば、確実に1点取れるポイントになりますよ。
民法は一つひとつの積み重ねが大切です。焦らず、まずはこの「留置権」のイメージを定着させていきましょう。

